パニック障害とは
パニック障害は、特定の場所や時間に限らず突然発生することが特徴です。
この障害によるパニック発作は、動悸や胸の痛み、突然の息苦しさ、発汗、震えなどを伴い、数分から数十分間続くことがあります。時には死の恐怖を感じるほどの強烈な不安を伴います。
パニック障害は、特に女性に多く見られ、男性に比べて約2.5倍の頻度で発症します。以下の症状に心当たりがある場合、パニック障害の可能性があります。
- 突然のめまいや、頭から血の気が引くような感覚がある
- 急に心臓が激しくドキドキし、数分間収まらない
- 息が苦しく、呼吸が荒くなる
- 発作が起こると自分が自分でないように感じる
- 発作時に手足が震えたり、汗をかいたりする
- 発作の最中、死を恐れるほどの恐怖を感じる
- 再び発作が起こるかもしれないという不安を感じる
パニック障害の症状
パニック障害には、「パニック発作」と「予期不安」と呼ばれる主な症状があり、一部の患者様には「広場恐怖」という症状も見られます。
パニック発作とは
パニック発作は、以下のような症状が予期せずに急に現れることがあります。
発作は数分から数十分間続き、場合によっては数時間持続することもあります。極度の恐怖を感じ、時には生命の危険を感じることもあります。
- 強い動悸
- 震えや発汗
- 自分が自分でないような感覚
- 呼吸困難
予期不安とは
予期不安は、過去のパニック発作の経験から、再び同様の発作が起こるのではないかという不安に常に悩まされる状態を指します。
パニック発作は、動悸や呼吸困難など、生命に関わるかのような重い身体的症状を伴うため、これらの症状が再発することへの恐怖は特に強いです。この不安が強まると、外出が困難になったり、職場や学校への通学・通勤のためにバスや電車に乗るのができなくなることもあります。
広場恐怖とは
広場恐怖は、パニック障害を持つ人が、逃げ場のない環境にいる際に強い恐怖を感じる状態を指します。
特にエレベーター、窓のない部屋、トンネル、電車や飛行機などの公共交通機関の閉鎖的な空間でこの恐怖が顕著になることが多いです。これにより、そのような場所を避ける行動が見られることがあります。
パニック障害の診断
パニック障害の診断には、下記の13の症状の項目が挙げられています。
パニック発作が発生すると、これらの症状が同時に現れ、発作は10分以内にピークに達します。その後、症状は約30分で落ち着いてきます。
診断基準について
以下のA~Dに該当する方はパニック発作を発症している可能性があります。
A. 以下の症状のうち4つ以上が突然現れ、10分以内にその症状が最高潮に達する
- 胸の不快感、胸に痛みがある
- 腹部の不快感、吐き気がある
- 動悸、心悸亢進、心拍数増加がある
- 息苦しさ、息切れ感がある
- 窒息感がある
- 震え、身震いがある
- 寒気、熱っぽい感じがある
- 発汗がある
- うずき感、感覚麻痺がある
- 死に対する恐怖がある
- ふらつく感じ、めまい、頭が軽くなる感じまたは気が遠くなる感じがある
- 現実でない感じまたは自分自身から離れているような感覚がある
- 気が狂うことに対する恐怖または自身のコントロールを失うことに対する恐怖がある
B. 少なくとも1回のパニック発作の後、以下のどちらか、あるいは両方が1ヶ月以上続いている
- 今後も起きるパニック発作や、パニック発作が起きた結果どうなるかについて心配し続ける。
- パニック発作が起きた際に助けが得られない場所や状況から、避けるような行動・生活が見られる。
C. その発作は、物質(乱用薬物、投薬など)または身体疾患・他の精神疾患によるものではない
D. その発作は、他の精神疾患(例えば社会恐怖、特定の恐怖症、強迫性障害、外傷後ストレス障害、分離不安障害など)ではうまく説明できない
パニック障害の治療
パニック障害の治療には主に認知行動療法(精神療法)と薬物療法の2つの方法があります。
パニック障害が進行すると、症状が悪化し、気分が大きく落ち込み、日常生活や社会生活に深刻な影響を与えることがあります。早期に専門医の診断と治療を受けることが非常に重要です。
認知行動療法
パニック障害は、極度の不安から「このまま死ぬかもしれない」といった偏った思考を引き起こし、行動を制限することがあります。
認知行動療法は、認知療法と行動療法の両方を統合して治療を行います。
認知療法では、セラピストとの対話を通じて、自身の偏った思考に気づき、それを修正していきます。
一方、行動療法では、不安を感じる具体的な状況に段階的に慣れていくことを目指します。たとえば、電車に乗ることに不安がある場合、最初に電車の近くに行くという小さなステップから始め、徐々にその状況に慣れていくことで、不安を克服していきます。
ただし、当院では医師が一人しかおらず、臨床心理士もいないため、本格的な認知行動療法や行動療法は行っておりません。医師との診察中に、日常生活における具体的な助言をしていくことになります。
薬物療法
パニック障害の治療には、パニック発作の抑制と予期不安を軽減するための薬物療法が用いられています。治療には主に、抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が使用されます。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
SSRIは、もともと抗うつ薬として開発されましたが、セロトニンの量を増やす効果があるため、パニック障害を含む不安障害にも効果を示します。
しかし、SSRIは副作用として眠気や吐き気、めまいを引き起こすことがあり、これらの副作用と治療効果のバランスを取るためには、医師と相談しながら用量の調整が必要です。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬
この薬は、筋肉の緊張や不安感を速やかに和らげる作用があり、パニック障害において急な不安症状を抑える頓服薬として使用されます。
ただし、依存性があるため、長期間の使用は推奨されません。眠気やふらつきなどの副作用も報告されており、これらが強い場合は、医師の指示に従い薬を別のものに切り替えるなどの対応が必要です。
パニック障害の予防
パニック障害は深い恐怖を感じることが特徴の疾患ですが、適切な治療を受けることで症状を抑え、日常生活に戻ることが可能です。特に薬物療法は効果的で、多くの患者様が症状のない状態へと改善します。
しかし、治療後でも症状が再発する可能性があるため、しばらくの服薬継続が必要です。また、一般的に抗うつ薬を急に中断すると、離脱症状と呼ばれる、めまい、ふらつき、しびれ、耳鳴り、といった症状が出ることがあるので、医師と相談しながら徐々に断薬することが重要です。
飲酒や喫煙、カフェインの過剰摂取は避けましょう
パニック発作を予防するためには、アルコール、タバコ、カフェインといった刺激物の過剰な摂取を控えることが重要です。これらは発作を引き起こす可能性があるため、適量を心がけましょう。
十分な睡眠をとりましょう
規則正しい生活を心がけ、十分な睡眠を確保することも大切です。適度な休息とともに、日常のストレスを溜め込まないよう意識することで、体のバランスを整え、精神的な安定を支えることができます。
周囲の方の協力も必要です
近年、パニック障害についての認識が広まり、症状への理解が深まっています。治療にあたっては、その病気の複雑さを理解し、患者様が直面している困難に共感することが非常に重要です。そのため、周囲の適切なサポートは治療の成功に大きくつながります。
パニック障害は適切な治療によって改善が期待できる病気です。病気についてしっかりと理解し、医師との密なコミュニケーションを保ちながら、焦ることなく治療を進めることが大切です。
よくある質問
パニック発作が起こった場合、どうすればいい?
まずは、安心できる場所に移動し、ゆっくりと深呼吸をして呼吸を整えることを意識してください。
周囲の人に助けを求められる場合は、無理をせずにサポートをお願いしましょう。発作は一時的なもので、時間が経つと徐々に症状は収まります。
発作が頻繁に起こる場合や強い不安を感じる場合は、医師に相談して適切な治療を受けることが重要です。
パニック障害の治療のために、日常生活でできることはありますか?
日常生活でできることとしては、規則正しい生活習慣を心がけることが大切です。
過度なストレスを避け、リラックスできる時間を設けましょう。また、適度な運動や十分な睡眠を取ることが、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。
アルコールやカフェイン、タバコの摂取は発作を引き起こす可能性があるため、控えることをおすすめします。
パニック障害の治療のため、どのような生活リズムで過ごせばいいですか?
パニック障害の治療には、規則的な生活リズムが非常に重要です。
毎日同じ時間に起床・就寝し、バランスの取れた食事を取ることで、体と心の安定を促します。また、ストレスを溜めないよう、適度な運動や趣味の時間を取り入れることも大切です。自分のペースでリラックスする時間を確保し、無理のない範囲で社会生活を続けましょう。
処方された薬の副作用がつらいため、薬の量を減らしても大丈夫ですか?
自己判断で薬の量を減らすことは避けてください。
副作用が強い場合は、すぐに担当の医師に相談しましょう。医師が適切な調整を行い、副作用を軽減する方法や別の薬への切り替えを検討してくれます。自己調整は症状の悪化や再発を招く可能性があるため、必ず医師と相談してください。
1人での外出が困難ですが、家族と一緒なら可能です。医療機関に相談することへの抵抗を感じていますが、それでも受診しても良いでしょうか?
受診していただいて大丈夫です。
パニック障害や不安症は、1人での外出が難しくなることがありますが、それは自然な反応です。医療機関では、患者様の状況に合わせて相談や治療を進めることができます。また、家族と一緒に受診することも可能ですので、無理をせずにできる範囲で少しずつ前進することが大切です。専門の医師と相談することで、症状の改善に向けた適切なサポートを受けられるでしょう。最初の一歩を踏み出すことが、回復への大切なステップです。ただし、家族のみの受診は受け入れておりません。必ず患者様本人はご来院ください。
パニック障害により、電車やバスが乗れません。今後苦手な状況は広がっていきますか?
パニック障害が治療されない場合、不安を感じる状況が広がる可能性はあります。早期の対応が重要ですので、不安を感じる状況が増えてきたら専門医の診断と治療を受けることが効果的です。
自宅に1人でいても発作が起こりました。パニック障害の症状に当てはまりますか?
自宅にいる時でもパニック発作が起こることはあります。
パニック発作は場所や状況に関わらず、突然発生するのが特徴です。自宅で1人でも同様の症状が出た場合は、パニック障害の可能性がありますので、医師に相談して診断を受けることをおすすめします。
息苦しくなったり、動悸が激しくなり、死ぬかもしれないと感じてとても怖くなります。こんな時どうすればいいですか?
まずは、落ち着いて深呼吸をしてみましょう。ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐くことで呼吸を整え、過剰な不安を軽減することができます。周囲に人がいる場合は、助けを求めても良いでしょう。これらの症状は一時的で、通常は数分で治まります。発作が頻繁に起こる場合や、不安が強い場合は、医師に相談して適切な治療を受けることが重要です。
家族にパニック障害の方がいる場合、接し方について注意することはありますか?
パニック障害を持つ方に対しては、共感と理解を示すことが大切です。過剰に心配したり、急かすのではなく、本人が安心できるように支えましょう。また、無理に苦手な状況に挑戦させるのではなく、専門的な治療を受けながら徐々に慣れていけるようにサポートしてください。家族の支えは治療の重要な要素ですので、困ったことがあれば医師に相談してアドバイスを受けることもおすすめです。
パニック発作が起きた場合、どう対処すればいいですか?
パニック発作が起きたら、まずは落ち着いて、ゆっくりと深呼吸を繰り返しましょう。周囲に安全な場所があれば、そこに移動して体を休めてください。発作は通常、数分から30分程度で治まることが多いので、無理をせず休みましょう。頻繁に発作が起こる場合は、頓服薬や治療法を医師と相談し、発作時の対処方法を事前に考えておくことが役立ちます。
パニック障害 症例
症例1: 30代の会社員
背景
Aさんは30代の男性で、大手企業で営業職として働いています。仕事は多忙で、締め切りや顧客対応に追われる日々を過ごしています。数か月前から、業務のプレッシャーが増し、残業が続く中で次第にストレスが蓄積していきました。
症状
ある日、オフィスで急に心臓が激しく鼓動し始め、呼吸が浅くなり、強い不安感に襲われました。頭がぼーっとして目の前が暗くなるような感覚があり、胸が締め付けられるような痛みも感じました。Aさんは「このまま死ぬかもしれない」と強い恐怖を感じ、同僚に助けを求めました。病院で検査を受けましたが、身体的な異常は見つかりませんでした。その後も同様の発作が何度か起こり、Aさんは電車や人混みなど、発作が起きた場所を避けるようになりました。
診断と治療
医師はパニック障害と診断し、認知行動療法と抗不安薬を提案しました。治療を開始したことで、Aさんは少しずつ発作の頻度が減り、発作への恐怖も軽減していきました。
症例2: 20代の大学生
背景
Bさんは20代の女性で、地方の大学に通う学生です。勉強が得意で、将来は大学院進学を目指しています。数ヶ月前から、試験やプレゼンテーションが続き、緊張やプレッシャーを感じることが多くなりました。
症状
ある日、授業中に突然心臓が激しく鼓動し、めまいを感じ、強い不安感が押し寄せてきました。その後、似たような発作がバスや教室など、公共の場で何度か発生しました。発作が起こるたびに「このまま意識を失ってしまうのではないか」「誰かに見られるのが怖い」と思い、外出が次第に億劫になりました。Bさんは外に出ることに強い不安を感じるようになり、大学に通うことも困難になってきました。
診断と治療
心療内科を受診したBさんは、パニック障害と診断されました。医師の指導のもと、認知行動療法とリラクゼーション法を学びながら、抗不安薬も処方されました。治療の結果、Bさんは外出の不安が徐々に和らぎ、少しずつ授業にも参加できるようになりました。
症例3: 40代の主婦
背景
Cさんは40代の主婦で、夫と2人の子どもと一緒に暮らしています。家事や育児に追われる毎日ですが、最近は夫の仕事の都合で家族との時間が減り、孤独感や不安感を強く感じるようになっていました。Cさんは家計のやりくりや子どもの学校のことで悩み、ストレスを抱えていました。
症状
ある日、スーパーで買い物中に突然動悸と息苦しさに襲われ、全身が震え、冷や汗が出ました。周囲の人に気づかれることが恥ずかしくなり、その場を離れて車に戻りましたが、不安感が収まらず家に帰る途中でもパニック状態が続きました。それ以来、Cさんは同じような発作がいつ起こるか不安になり、外出するのを避けるようになりました。
診断と治療
医師に相談した結果、パニック障害の診断が下されました。Cさんはカウンセリングを受け、パニック発作のトリガーを特定し、リラクゼーションやストレスマネジメントのスキルを学びました。また、薬物療法も併用することで、症状は少しずつ改善し、外出する機会も増えました。