心配しすぎる・強い不安を感じる全般性不安障害とは
全般性不安障害とは、日常生活の中で強い不安感に襲われ、その結果としてさまざまな心身の不調が続き、生活に支障をきたしてしまう状態です。
周囲からは「心配性」や「気にしすぎ」と言われることが多いかもしれませんが、ご本人にとっては、その不安を拭い去ることができず、長期間にわたって症状に苦しむことがあります。不安が日常生活に大きな影響を与えている場合は、早めに専門の医師に相談することが大切です。
その他の神経症・不安障害
全般性不安障害の他にも神経症・不安障害にはいくつかの種類があり、それぞれ症状も異なります。
強迫性障害
強迫性障害とは、強い不快感や不安(強迫観念)に悩まされ、それを解消しようとして過剰な行動(強迫行為)を繰り返してしまう状態です。
例えば、「手が汚れているのではないか」という強い不安に襲われ、必要以上に何度も手を洗い続けてしまうなどのケースが挙げられます。
解離性障害
解離性障害とは、強いストレスやトラウマに対処する自己防衛の一つで、自分の意識を切り離すことにより発生します。この障害では、「解離」と「転換」という二つの主な症状が現れます。
「解離」の症状には、自分の行動や経験を完全に忘れる、自己のアイデンティティが不明確になる、あるいは自己が複数存在するかのような感覚が挙げられます。
「転換」の症状では、身体の一部が機能しなくなる、感覚や視覚、聴覚、嗅覚の部分的な麻痺が発生することがあります。
心気症
心気症とは、自分が重篤な病気(がんや心臓病など)にかかっているという強い思い込みにとらわれる状態を指します。患者様は、自分が病気だと周囲に訴えたり、不安感や抑うつ症状を伴うこともあります。大切な人の死去など、心的なショックがきっかけとなる場合もあります。
医師の診察や検査で、病気が存在しないことを説明しても、心気症の症状は長期間続き、日常生活に支障をきたすことがあります。また、心気症はうつ病を併発するケースもあります。
パニック障害
パニック障害とは、身体的な病気がないにもかかわらず、突然の動悸や呼吸困難、めまいなどの発作を起こす病気です。また、発作が再発するのではないかという強い不安から、外出や乗り物の利用が難しくなることもあります。
また、他の症状としては、発汗、吐き気、そして頭から血の気が引いていくような感覚も挙げられます。
恐怖症
恐怖症とは、特定の状況や対象に対して、過度に強い恐怖を感じる状態を指します。
恐怖を感じる状況に直面すると、通常では考えられないほど強い不安に襲われ、動悸や発汗、呼吸困難などの身体症状が現れることがあります。しかし、恐怖を感じる状況にない限り、普段の生活には全く問題がないという特徴があります。
よく知られている例としては、高所恐怖症が挙げられますが、他にも閉所恐怖症、広場恐怖症、社会恐怖症などがあります。
全般性不安障害の症状
精神的症状
精神的な症状としては、以下のような状態が挙げられます。
- 漠然とした不安感が常にある
- 神経が過敏になる
- 常に緊張している
- 落ち着きがなく、いら立ちやすい
- 集中力が続かない
- すぐに怒りやすくなる
- 理不尽な考えが頭から離れない
- 不合理と自覚しつつも、その考えが頭から離れない
身体的症状
身体面の症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 肩こり
- 頭痛
- 胸痛
- 動悸
- めまい、ふらつき
- 胃の気持ち悪い感じ
- 疲労感、倦怠感
- 発汗、ほてり
- 冷え、震え
- のどの不快感
- 呼吸がしづらい
- 不眠
『うつ病』と『心配性』との違い
全般性不安障害は、その症状がうつ病に似ていることがあります。また多くの場合、周囲の人々はこれを単なる「心配性」とみなすことが多いです。ここでは、全般性不安障害とうつ病の違いについて説明します。
全般性不安障害とうつ病の違い
全般性不安障害は、特定の状況で強い不安を感じ、その状況を回避したり我慢することで不安がさらに強まる特徴があります。
患者様ご自身ではこの不安をコントロールできず、毎日のように続き、生活機能にも支障をきたします。これらの点が、うつ病などの他の精神疾患とは異なる特徴です。
また、全般性不安障害の方がうつ病を併発する場合や、うつ病の方が全般性不安障害を併発するケースも少なくありません。
全般性不安障害と心配性の違い
全般性不安障害と心配性を区別する基準は「日常生活に支障が出ているかどうか」です。
心配性は、個人の性格や気質に由来する特徴であり、病気や障害ではありません。
一方、全般性不安障害は明確な病気であり、極度の心配が原因で日常生活の機能が著しく低下し、何も行動できなくなったり、外出が困難になったりすることがあります。
全般性不安障害の診断基準
診断にあたっては、患者様ご本人だけでなく、ご家族の既往歴や、似たような症状があったかどうかも確認することがあります。その上で、以下のポイントを評価し、診断を行います。
- ほぼ毎日、強い不安や心配に悩まされる
- 不安や心配を自分でコントロールできない
- 不安や心配によって、心身にさまざまな症状が現れる
- 不安や心配が苦痛となり、日常生活に支障をきたす
- 他の精神疾患に該当しない
全般性不安障害の治療
全般性不安障害の治療では、患者さまが本来持っている感情のバランスを取り戻すことを目指し、薬物療法と精神療法を組み合わせて行います。
通常、まずは薬物療法を用いて症状を和らげ、不安に適切に対処できる状態を整えます。症状が軽減されることで、その後の精神療法がより効果的に導入できるようになります。薬物療法と精神療法を併用することで、より安定した回復を目指します。
「薬物療法」
薬物療法では、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きを活性化する抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、不安を和らげる向精神薬(BZD:ベンゾジアゼピン)などを使用します。これにより、不安や緊張を軽減し、治療が進みやすい状態を整えます。
「精神療法」
全般性不安障害に対する精神療法には、「認知行動療法」などが用いられます。
「認知行動療法」とは、患者様の認知の歪みを修正し、不安を感じにくくする方法です。不安が生じたときの考え方や対処法を改善することで、ストレスを和らげ、症状のコントロールを図ります。当院では、認知行動療法は行っておりませんので、医師より具体的な生活上の助言をしていくことになります。
全般性不安障害 症例
症例1: 40代の教師
背景
Aさんは40代の男性で、小学校の教師として働いています。家族は妻と2人の子どもで、家庭では良好な関係を保っていますが、学校では生徒や保護者との関係や授業の進行に常に気を配っているため、ストレスが積み重なっていました。特に、成績評価やクラス運営に対する責任感が強く、完璧主義な性格です。
症状
Aさんは、毎日夜遅くまで次の日の授業や保護者対応について悩み、眠れない日が続いていました。「もし授業がうまくいかなかったらどうしよう」「保護者からクレームが来たらどう対処すべきか」といった不安が頭から離れず、休日でも常に仕事のことを考えてしまいます。軽い胃痛や筋肉の緊張感、集中力の低下も感じるようになり、仕事にも支障が出始めました。
診断と治療
心療内科を受診した結果、Aさんは全般性不安障害と診断されました。医師はカウンセリングを通じて不安を引き起こす考え方のパターンを理解させ、認知行動療法を提案しました。また、睡眠導入剤や抗不安薬を併用し、Aさんは次第に不安の管理ができるようになり、仕事に対する過度な心配が軽減しました。
症例2: 30代のシングルマザー
背景
Bさんは30代の女性で、小学生の息子と二人で暮らしています。離婚後、生活費を稼ぐためにフルタイムで働いており、仕事と家事を両立させるのに苦労していました。特に、将来の経済的不安が常に頭にあり、息子の教育や自分の仕事の安定性について心配が尽きません。
症状
Bさんは、夜になると「もし今の仕事を失ったらどうなるのだろう」「息子の進学にお金が足りなかったらどうしよう」という考えが頭を巡り、不安で眠れなくなることが増えてきました。また、息子が風邪を引いた時などは「このまま重病になったらどうしよう」と過度に心配し、何度も医者に連れて行くことがありました。これらの不安は常に彼女の生活に影響を与え、仕事中でも集中できないことが多くなりました。
診断と治療
Bさんは全般性不安障害と診断され、カウンセリングやストレス管理のためのスキルを学ぶ治療を開始しました。また、医師の指導のもとで抗不安薬も処方されました。治療を通じて、Bさんは少しずつ不安に対処できるようになり、未来に対する不安も軽減され、日常生活を取り戻しつつあります。
症例2: 60代女性 定年退職した夫と2人暮らし
背景
Cさんは60代の女性で、定年退職した夫と二人暮らしをしています。子どもたちは独立し、夫婦で穏やかに過ごす日々ですが、近年、自身の健康や将来について漠然とした不安を感じることが増えてきました。経済的に大きな問題はなく、生活に目立ったストレスもありませんが、心の中でなんとなく「このままで大丈夫だろうか」という心配が生まれてきました。
症状
Cさんは、日常生活の些細な出来事に過剰に不安を感じることが増えました。軽い頭痛や疲れを感じると「何か重い病気ではないか」と、1日中そのことについて考えるようになりました。夜には「もし夫が病気になったらどうしよう」「自分が先に弱ったら、残された夫が困るのではないか」といった漠然とした不安が頭をよぎり、なかなか眠れなくなりました。また、気持ちが常に落ち着かず、集中力の低下や軽い胃の不快感、肩こりなどの身体的な症状も感じるようになりました。
診断と治療
心療内科を訪れたCさんは、全般性不安障害と診断されました。医師は、不安感を解決するための具体的な生活上の助言を行いました。さらに、不安感が強いときに対応するための抗不安薬も処方されました。治療を続ける中で、Cさんは次第に気持ちが落ち着くようになり、将来への漠然とした不安も少しずつ和らぎ、日々の生活を楽しめるようになりました。